『ふつうの軽音部』というタイトルを初めて聞いたとき、多くの人が思うのは「地味そう」「ゆるふわ日常系かな?」といったイメージかもしれない。
でも、読み進めるうちに気づくのだ。この物語には、“静かな痛み”と“声にならない叫び”が詰まっている。
バンドを組む、音を鳴らす――それだけでは終わらない。“他人と向き合う”という、もっと複雑で繊細な作業が描かれているのだ。
そんなキャラクターたちの“心の輪郭”を、MBTIという心理ツールで照らしてみたらどうなるか。
それは単なる診断遊びではなく、「自分では言葉にできなかった感情に、名前をつけてあげる」という行為でもある。
この記事では、『ふつうの軽音部』の登場人物をMBTIという16の性格指標に照らし、彼らが何を感じていたのか、どうしてそう行動したのかを、少しだけ言語化してみたい。
MBTIとは何か──“性格”を16タイプで分ける心理指標
物語を読むとき、私たちは「なんでこのキャラはこんなことを言ったのか」「どうしてあの子は黙っていたのか」と考えることがある。
MBTIは、そうした問いへのヒントをくれる“性格の地図”のようなものだ。
この章では、MBTIというツールが何を元に成り立ち、なぜ漫画のキャラクター分析にまで用いられるのかを紐解いていく。
MBTIの起源と仕組み
MBTI(Myers-Briggs Type Indicator)は、カール・ユングの心理学理論をベースに、キャサリン・クック・ブリッグスとその娘イザベル・マイヤーズが開発した性格診断ツールだ。
彼女たちは、「人はそれぞれ違うけれど、あるパターンに分類できるのではないか?」という問いからこの理論をスタートさせた。
MBTIでは、人間の性格を「4つの二項対立」を組み合わせて表現する。つまり、
- 外向(E) or 内向(I)
- 感覚(S) or 直観(N)
- 思考(T) or 感情(F)
- 判断(J) or 知覚(P)
という4つの軸の組み合わせで、16通りの性格タイプに分類される。
4つの軸と16タイプ一覧
たとえば「ENTP」というタイプは、外向・直観・思考・知覚の4つの傾向を持つ人だ。
彼らはアイデアマンで、柔軟で、常に“問い”を持ち続ける。
こうした性格タイプは、ただラベルを貼るだけのものではない。“行動の背後にある動機”を読み解くヒントになる。
『ふつうの軽音部』のキャラクターたちも、表面上は平凡に見えて、実はそれぞれ全く異なる“動機”と“価値観”を抱えている。
その違いを見抜く手がかりとして、MBTIはとても有効だ。
なぜMBTIがキャラ考察に使われるのか?
MBTIは近年、キャラクター分析やファンダム内の考察において非常にポピュラーなツールになっている。
その理由は明確で、「キャラの内面を言語化する」ことができるからだ。
たとえば、「あの子はなんで急に怒ったの?」という場面でも、MBTIを知っていれば「そのタイプは“正義感”がトリガーになりやすい」と解釈できる。
また、読者自身が「このキャラ、なんか自分に似てる」と思ったとき、MBTIというフレームが“その理由”を説明してくれることもある。
キャラクターに感情移入すること。それは、物語を“自分ごと”に変えるということ。MBTIは、そうした読書体験をより深くしてくれる。
『ふつうの軽音部』主要キャラ×MBTIタイプ診断
ここからは、実際に『ふつうの軽音部』に登場するキャラクターたちを、MBTIで分類していく。
公式設定ではないが、性格や言動、物語中での立ち位置を丁寧に読み取っていけば、“それっぽい”タイプが見えてくる。
キャラにMBTIを当てはめるのは、単なる遊びではない。むしろそれは、「このキャラって、こんな内面を持っていたのかもしれない」と、物語にもう一度潜っていくための地図になる。
以下では、特に人気の高い主要メンバーにフォーカスし、それぞれの“性格の輪郭”を浮かび上がらせてみたい。
鳩野ちひろ(ISFJ)──“支えること”でしか自分を保てない子
鳩野ちひろ、通称「はとっち」は、バンド“はーとぶれいく”のドラマーであり、精神的な潤滑剤でもある存在。
いつも周囲を観察し、空気を読みながら、「自分が波風を立てないように」と立ち回っている。
この慎重さ、他者優先の姿勢、自己表現よりも“調和”を重んじる態度は、典型的なISFJ(擁護者)タイプだ。
彼は時に周囲の期待に押しつぶされそうになりながらも、「誰かの役に立てているなら、それでいい」という小さな灯を心の支えにしている。
MBTIで見ると、ISFJは“人のために”という意識が強すぎて、自分を見失いやすい。それは、ちひろの“無理して笑ってる感”にも通じる。彼の行動の根底には、「自分の居場所は“役に立つこと”で確保される」という切実な思いがある。
幸山厘(ENTP)──言葉の刃を持つ“問いかける者”
厘は、“はーとぶれいく”のギタリストであり、皮肉屋であり、どこか一歩引いた視点を持っている存在だ。
彼の会話にはいつも棘がある。でも、それは他人を傷つけたいからじゃない。「本音を引き出したい」という欲求の裏返しだ。
そんな厘の性格傾向は、まさにENTP(討論者)タイプ。
思考が先走り、論理や言葉遊びに長けている。表面ではクールに見えて、実は情熱的。
MBTIでいうENTPは、「問いを立てること」がアイデンティティになっている。厘もまさに、誰よりも“正しさ”や“偽善”を嫌うタイプで、その鋭さは時に仲間を突き放してしまう。
でもそれは、自分自身にも問いを投げ続けている証拠。厘の刃は、他人だけでなく自分にも向いている。
内田桃(ENFJ)──“みんなを引っ張る”その裏にある孤独
桃は、“はーとぶれいく”のボーカルであり、「誰かのために歌う」という想いが原動力になっているキャラクターだ。
周囲をよく見て、先に動いて、引っ張る。でも、その“強さ”はいつも笑顔で包まれていて、本当の弱さは誰にも見せない。
そんな彼女は典型的なENFJ(主人公)タイプだ。
ENFJは「他者の感情に敏感で、人を導く力がある」一方で、「自分の感情を後回しにしがち」という特徴がある。
桃もまた、バンドの中心に立ちながら、「誰かの希望になること」を自分の役割として引き受けている。
でもそれは、時に重すぎる荷物になる。「ちゃんと頼っていいよ」と、彼女に伝えたくなる瞬間が、読者には何度も訪れるはずだ。
藤井彩目(INFJ)──見えない言葉に耳を澄ます“提唱者”
彩目は、“ことば”に対して非常に繊細な感性を持っている。直接的に語られるシーンは少ないが、その静けさの中に、深い思索と信念が垣間見えるキャラクターだ。
彼女は典型的なINFJ(提唱者)タイプと考えられる。
INFJは、理想主義と洞察力に優れ、他人の“無言の感情”を察するのが得意。
彩目の言葉の選び方や、視線の送り方には、「相手の感情を言葉にしてあげたい」という気配りがある。
その静かな共感力こそ、INFJらしさの真髄だ。
彩目は、決して大声で何かを主張するタイプではない。けれど、“沈黙の中の痛み”に寄り添う力は、誰よりも強い。
MBTIタイプ別に読み解く“ふつうじゃない”感情の構造
『ふつうの軽音部』の魅力のひとつは、「ぶつかり合わない衝突」が丁寧に描かれていることだ。
声を荒げるわけでも、劇的な展開が起きるわけでもない。でも、ちゃんと感情は揺れている。
それは、性格の相違からくる“伝わらなさ”であり、同時に“わかりたさ”でもある。
ここではMBTIのタイプを軸に、それぞれのキャラクターがなぜすれ違い、どうして一歩近づけたのか──その“感情の構造”に迫っていく。
ISFJとENTP──真逆だからこその衝突と補完
ISFJのちひろと、ENTPの厘は、“他人の言動”への解釈の仕方が根本的に違う。
ちひろは空気を読む。周囲の感情を汲み取って、「自分がどうすれば調和を乱さないか」を考える。
対して厘は、あえてその空気に風穴を開けようとする。「それって本音なの?」と問いかける。
このふたりのやりとりには、時に居心地の悪さすら感じる。でもそれは、“違う価値観が隣り合っているから”に他ならない。
MBTI的に言えば、内向型と外向型、感情タイプと思考タイプの衝突。
しかし、だからこそちひろは厘から「自分の本音を考える」きっかけを得て、厘もまた「誰かに寄り添うという選択肢」に触れるのだ。
INFJとENFJ──“理想”を描くことの孤独と危うさ
藤井彩目(INFJ)と内田桃(ENFJ)は、いずれも“人の心を見ている”タイプだ。
ただしそのアプローチは真逆。INFJは、静かに観察し、自分の中で思考を深めてから行動する。
ENFJは、相手の変化に即座に反応し、自ら場を動かしていく。
どちらも“理想”を抱えているが、その理想の描き方にズレがある。INFJは「言葉にしない美しさ」に惹かれ、ENFJは「言葉で届く強さ」を信じる。
二人がすれ違うとき、それは“信じているものの形”が違うからだ。
でも、どちらも同じ方向を見ている。その点で、彼女たちは“同じ孤独”を背負っている。
ESFPとISTP──衝動と静観が交差する距離感
ESFPタイプ(鷹見)とISTPタイプ(遠野元)も、MBTIでは非常に対照的な組み合わせだ。
ESFPは「今、目の前の感情」に正直。場の空気を盛り上げたり、率先して動いたりすることに長けている。
一方、ISTPは「距離を取って全体を把握」するタイプ。感情よりも状況を冷静に見る。
この二人の関係には、“距離感”がテーマとして浮かぶ。どちらかが近づきすぎると、もう一方が引く。
だけど、それは「嫌いだから」ではなく「自分のリズムを守るため」。
MBTI的な解釈を入れることで、この“噛み合わなさ”の意味が明確になる。
共存は簡単じゃない。でも、だからこそ学び合える関係でもある。
性格タイプから見た“バンド内の人間関係”の機微
バンドは「同じ方向を見て演奏する」という点で、MBTIの違いが最も顕著に出る場所だ。
ISFJが「空気を守ろう」とすれば、ENTPは「空気を壊そう」とする。
ENFJが「まとめよう」とすれば、INFJは「言葉にしないまま抱え込む」。
そんな中で、キャラクターたちは少しずつ“自分のやり方”を変えていく。
それはMBTIの成長理論にも通じる話で、人は環境や人間関係によって柔軟に変化する。
『ふつうの軽音部』の魅力は、この“変わっていく過程”を丁寧に描いているところにある。
MBTIで読み解けば、キャラクターの成長の軌跡が、よりリアルに、より愛おしく見えてくる。
まとめ:MBTI診断が教えてくれる、“ふつう”のその先
MBTIでキャラクターを分類することは、単なるラベリングではない。
それは、「その人が、なぜそうするのか」を考える視点を持つことだ。
『ふつうの軽音部』に登場するキャラクターたちは、一見すると“平凡”で、“普通”に見えるかもしれない。
けれど彼らの一言には、躊躇いがあり、余白があり、“語られなかった背景”がある。
MBTIというレンズを通すことで、その沈黙の意味や、すれ違いの理由が少しずつ見えてくるのだ。
たとえば、なぜ桃は笑ってリーダーを続けるのか。
なぜちひろは、自分の感情を後回しにしてでも場を整えようとするのか。
なぜ厘は、言葉で人を刺すようなことをあえて選ぶのか。
MBTIは、それらすべてに“答え”をくれるわけではない。けれど、「そうか、この子はこういう風に世界を見ているのかもしれない」という、ひとつの“理解の入口”を開いてくれる。
そして何より大切なのは、「私もそうかもしれない」と、読者自身がふと立ち止まる瞬間だ。
自分の性格をMBTIで診断したことがある人なら、きっとあのキャラに“似てる”と感じたことがあるだろう。
『ふつうの軽音部』という物語は、“普通”という言葉の奥にある、無数の“らしさ”を描いている。
そのキャラたちにMBTIで光を当てることは、「ふつう」の意味を問い直すことでもあるのだ。
誰かを理解したいと思ったとき。
自分の言葉が誰かに届かなくて悩んだとき。
MBTIというフレームは、あなたの感情を整理し、“再起動”させてくれるツールになるかもしれない。
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