『ふつうの軽音部』には、ただの“BGM”ではない、物語と深く結びついた選曲が数多く登場します。
誰かの悩みや、誰かの涙、誰かの決意の瞬間を、“音楽”という言葉にならない感情が補っている。
それぞれのシーンで流れる音は、誰かの痛みに寄り添い、誰かの背中をそっと押している。
この記事では、そんな『ふつうの軽音部』に登場する楽曲を網羅し、その音が物語の中でどんな意味を持ち、どんな感情を照らしてきたのかを考察していきます。
「この曲、覚えてる」──きっとあなたにも、胸の奥で再生される“あの瞬間”があるはずです。
第1巻〜第2巻｜初期メンバーと“音”の出会い
物語の幕開けには、まだ未完成で不器用なキャラクターたちが、“音”という名の手がかりを手繰り寄せるような描写が並びます。
曲は彼女たちの“はじまりの感情”を翻訳してくれる存在。
どんな音に出会ったか──その選択が、読者にとっても彼女たちを知る入口となっていきます。
RADWIMPS「おしゃかしゃま」──項希が触れた“衝動”
鷹見項希が楽器店で試奏するシーンに流れるのが、RADWIMPSの「おしゃかしゃま」。
言葉より先に、音が彼女の“内側”を語っていた。
鋭いリフと加速するビートは、項希のなかに溜め込まれたエネルギーと衝動を可視化し、読者の感情に火をつける。
何かを壊したいほどの焦燥、だけど自分を表現する術がないもどかしさ。そんな想いが、この選曲ひとつで見えてくる。
彼女にとって音楽とは、“言葉にできない自分”を代わりに叫んでくれる存在なのかもしれない。
ASIAN KUNG-FU GENERATION「ソラニン」──鳩野の孤独な弾き語り
“孤独”を音に託す──そんなテーマが滲むのが、鳩野ちひろの「ソラニン」弾き語りシーン。
明るくもない。かといって暗くもない。その“中間の色”を纏ったこの曲が、彼女の等身大の葛藤に寄り添ってくる。
鳩野にとって部屋は避難所であり、ギターは唯一の会話相手だったのかもしれない。
ここで印象的なのは、彼女が上手に演奏できたかどうかではなく、その音が彼女の心をちゃんと映し出していたということ。
音楽の原点に触れるような描写だ。
BUMP OF CHICKEN「メロディーフラッグ」──厘の“好き”が教えてくれるもの
幸山厘が「好きな曲は？」と問われて答えたのが、「メロディーフラッグ」。
多くを語らない彼女の中に、確かに“誰かと繋がりたい”という意志があることが、この一言で伝わってくる。
BUMP OF CHICKENの中でもこの曲は、“届けること”と“信じること”の間にある葛藤を描いた1曲。
厘が選んだという事実が、彼女の繊細さや温かさを際立たせている。
それは、物語が進んだあとにもずっと読者の中に残る“感情の伏線”になっていく。
Hump Back「拝啓、少年よ」──カラオケに滲む叫び
カラオケで披露されるこの曲には、単なる“歌”では片づけられない思いが詰まっていた。
「拝啓、少年よ」は、夢に敗れたことがある人なら誰しもが喉を詰まらせるような、叫びのような楽曲だ。
ステージじゃない、ライブじゃない、ただの部屋で歌うだけ──それでも伝わってしまう本音がある。
その“にじみ出る想い”を、Hump Backというバンドのエモさが的確にすくい上げている。
彼女たちの声に重なるこの曲は、青春の温度をそのまま記録している。
あいみょん「君はロックを聴かない」──1年ライブに託した想い
1年生ライブのセットリストに選ばれた「君はロックを聴かない」。
この曲の“言葉を飲み込んだ優しさ”が、演奏する彼女たちの表情や揺れるピッキングに溶けていく。
「あの人に伝えたいけど、伝えられない」──そんな気持ちを、曲が代弁してくれる。
ライブという舞台に立つ勇気と、それを見つめる誰かへの願い。その両方が重なり、“あの空間だけの特別な空気”を生み出していた。
音楽は、ときに言葉よりも確かに、気持ちを届けてくれる。
第3巻〜第4巻｜“対バン”とプレイリストに宿る感情
物語が第3巻以降に進むと、音楽は“ただ鳴らすもの”から、“誰かにぶつけるもの”へと変化していきます。
対バンや校内ライブなど、演奏という行為が〈他者との対話〉になる。
そしてもう一つ。スマホの中、イヤホン越しに流れる“プレイリスト”が、キャラクターの心の深部をこっそり代弁していく。
音楽が“私たちの物語”になる瞬間が、ここには詰まっています。
銀杏BOYZ「援助交際」──たまきの叫びとsound sleepの衝突
校内でのライブバトル──その熱量を決定づけたのが、新田たまき率いるバンドが演奏した銀杏BOYZの「援助交際」。
タイトルだけを見れば挑発的だが、その中身は「どうしようもない自分」への自己嫌悪と、それでも叫ばずにいられない感情の衝突だ。
たまきはこの曲で何を伝えたかったのか。“感情をぶつけることの意味”を、自分自身に問うようにステージに立っていたようにも見える。
それは同じステージにいたsound sleepのメンバーにも響いたはず。
この一曲が“戦い”を“対話”に変えたのだ。
a flood of circle「理由なき反抗」──藤井の葛藤を映す1曲
ラチッタデッラのベーシスト・藤井が聴いていたのが、a flood of circleの「理由なき反抗」。
この選曲は偶然ではない。
彼は明るく、表向きには余裕のある人物として描かれてきたが、その内側には常に“演じている自分”と“本当の自分”との乖離がある。
この曲が訴える“怒りの理由がなくても、叫びたいものはある”というテーマは、まさに彼の葛藤を代弁していた。
誰にも見せないプレイリストの一曲に、彼の真実がにじんでいる。
クリープハイプ「身も蓋もない水槽」──彩目の“私だけのリスト”
音楽アプリのプレイリストには、持ち主の感情がそのまま反映される。
彩目が入れていたのは、クリープハイプの「身も蓋もない水槽」。
複雑で、説明のつかない気持ち。人に話せない不器用さ。
それでも“透明なまま沈んでいくような感情”を、この曲は言葉と音で包んでくれる。
彩目というキャラクターは、まだ多くを語らない。
でも、彼女のスマホの中の曲たちが、彼女の代わりに語ってくれている。それが“選曲のリアル”なのだ。
NEE「不革命前夜」──変われない痛みの象徴
プレイリストにはNEEの「不革命前夜」も入っていた。
タイトルだけでも印象的だが、その歌詞はまさに“変われない自分”に向けた皮肉と祈りが混ざり合っている。
音楽って、必ずしも背中を押すものばかりじゃない。
ときには、「ここから動けない」って気持ちに、じっと寄り添ってくれるものでもある。
この曲がプレイリストにあるということ自体が、誰にも言えない弱さを持っている証拠。
「不革命」でいることに、意味なんてあるのか？──そんな問いが、物語の静かな背景に差し込まれている。
Vaundy「怪獣の花唄」──レイハが選んだ“開放”
レイハさんが公園で口ずさんでいたのは、Vaundyの「怪獣の花唄」。
彼女のキャラから見ても、この選曲は絶妙だ。
ポップで爽やかなのに、内面にはどこか寂しさと破壊衝動がある。
“怪獣”でありながら、“花”という優しさをまとっている曲──まるで彼女自身のようだ。
誰かに壊される前に、自分を解放したい。そんな願いが、この曲の中に滲んでいるように思える。
音楽が、彼女を自由にする。それはほんの数分だけの魔法かもしれないけれど、確かにそこにあるものだ。
“あの曲、なんだっけ？”を解消する一覧まとめ
「あの話で流れてた曲、なんだっけ？」
『ふつうの軽音部』を読んでいて、そんな気持ちになったことはありませんか？
物語の中で自然に登場した“音”たちは、読者の記憶に確かに残っているけれど、正式な曲名や演奏シーンとなると意外と曖昧だったりします。
このセクションでは、読後にもう一度音楽と物語を結び直せるよう、登場曲を〈巻数・話数・演奏者・場面〉付きで一覧に整理。
さらにSpotifyやAmazon Musicで聴ける便利なプレイリスト情報もまとめてお届けします。
登場曲一覧（巻別・話数付きリスト）
物語の時系列に沿って登場した楽曲をまとめたのが、以下のリストです。
それぞれの曲がどの巻・何話で登場し、どんな文脈で使われたのかを把握することで、読後の感情をより深く再体験できます。
- 第1話「おしゃかしゃま」 / RADWIMPS（項希が試奏）
- 第2話「あいどんわなだい」 / 銀杏BOYZ（たまきのバンドが新歓）
- 第3話「ソラニン」 / ASIAN KUNG-FU GENERATION（ちひろが練習）
- 第9話「援助交際」 / 銀杏BOYZ（校内ライブ）
- 第15話「君はロックを聴かない」 / あいみょん（1年生ライブ）
- 第26話「不革命前夜」 / NEE（彩目のプレイリスト）
……など、感情の節目で鳴り響いた曲たちがズラリ。
物語の印象的な瞬間を辿るのに最適なリファレンスです。
演奏者／シーン別でわかる“誰の曲だったか”ガイド
「この曲、誰が演奏してたっけ？」という疑問にも応える形で、演奏者別の整理も用意しました。
キャラクターたちの“選曲”は、彼女たちの性格や感情を語るもう一つの言語。
たとえば――
- 鷹見項希：「おしゃかしゃま」（衝動と爆発の象徴）
- 新田たまき：「援助交際」「君はロックを聴かない」（叫びと優しさの二面性）
- 鳩野ちひろ：「ソラニン」「透明少女」（内省的で孤独な選曲）
- 藤井さん：「理由なき反抗」（心の矛盾）
- 彩目：「身も蓋もない水槽」「不革命前夜」（沈黙の裏にあるノイズ）
このように、選ばれた曲はキャラの感情履歴のようなもの。
誰が、どんな想いでその音を鳴らしたのか――見返すたびに、物語の深度が増していきます。
すぐに聴ける！Spotify・Amazon Musicプレイリストリンク
「あの曲、もう一度聴きたい」。
そんな方のために、作中登場曲をまとめたプレイリストも以下にご紹介。
ワンクリックで、物語の“感情の断片”が耳から蘇ります。
気になった曲からもう一度聴くも良し、読み返しながら流すも良し。
音で、物語と“再会”してみてください。
まとめ：『ふつうの軽音部』が教えてくれる、“音楽の意味”
『ふつうの軽音部』に登場する楽曲たちは、ただの“演出”ではありません。
それぞれのキャラクターが、言葉にできない感情を音に乗せていた。
叫びたいのに叫べなかったこと。誰かに届けたいけど、うまく言えなかった想い。
そんな“不完全な感情”たちが、RADWIMPSやBUMP OF CHICKEN、あいみょん、NEEといった曲たちによって補完され、響いてくる。
この作品は、音楽が物語の脇役ではなく、“もうひとつの主人公”になりうるということを、静かに証明してくれているのです。
「誰が、いつ、どの曲を選んだのか」という事実は、物語の奥行きを深める鍵でもあります。
選曲にはキャラの性格が、プレイリストには彼らの過去が、ライブ演奏には“今の気持ち”が宿る。
それらを知ることは、物語を“読んだ”から“感じた”へと変える、感情のアップデートです。
そして何より、この記事を通して再確認できたのは――
音楽は、記憶の中で何度でも再生できるということ。
「あのとき読んだあのページのあの曲」、その記憶は、あなたの中にずっと鳴り続けているはずです。
『ふつうの軽音部』という物語を、“音”でもう一度読み直してみてください。
あなたのなかで鳴っていた“感情の名前”が、きっと見つかるはずです。
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