ふつうの軽音部の登場人物を徹底紹介|なぜこのキャラたちは、こんなにも“リアル”なのか?

ふつうの軽音部

「ふつう」って、なんだろう。
目立たないけど、なんとなく気になってしまう。
地味に見えるけど、どこか刺さってくる──『ふつうの軽音部』は、そんな“共感”でできた漫画だ。

この記事では、読者の心を静かに震わせるこの作品の登場人物たちを徹底紹介する。
ギターを握る手、音に触れるまなざし、そして不器用な感情たち──そのひとつひとつに、“リアル”が宿っている
このページを読み終えたとき、きっとあなたも思うはずだ。
「このキャラたち、まるで自分たちみたいだ」と。

主要キャラ4人の関係性と“はーとぶれいく”の始まり

この作品の中心にいるのは、ちひろ・厘・桃・彩目の4人。
彼女たちはそれぞれ“音楽”に対して異なる温度を持ちながらも、「はーとぶれいく」というバンドを通してひとつの感情に向き合っていく
ここでは、彼女たちの人物像と、その関係性の中にある機微を解き明かしていく。

鳩野ちひろ|“ふつう”に抗い続ける主人公

主人公・ちひろは、自己評価が低いタイプの女子高生。
「自分には才能がない」と繰り返しつぶやきながらも、どこかで音楽に惹かれ続けている。
それは憧れであり、恐れでもあり、かつてのトラウマ──人前で歌った過去の失敗が、彼女の足を止めていた。

そんな彼女がギターを手にし、再び歌おうと決意するのは、「自分の声を誰かに届けたい」というごく個人的な願いからだ。
それでも前に進もうとするちひろの姿には、努力とか根性という言葉だけでは語れない、“諦めきれなさ”のリアルが宿っている

幸山厘|“信じること”がすべての始まりだった

厘は、ちひろの中学時代の同級生であり、現在はベーシスト。
ちひろの歌声に“救われた”という経験を持ち、誰よりも彼女を信じている。
その信じ方は極端で、ある意味“宗教的”ですらある。

「バンドやろうよ、私と。あなたの歌、もう一回聴きたい」
そんな言葉からすべてが始まる。
厘の存在は、ちひろを音楽の世界に引き戻す“火種”であり、作品の根幹を支える感情の起点なのだ。

内田桃|“陽キャ”という仮面の奥にある揺らぎ

桃は明るく、クラスの人気者。
いわゆる“陽キャ”として描かれるが、その笑顔の裏には、常に他人の目を気にする癖と、小さな劣等感が潜んでいる。

中学時代に組んでいたバンド「sound sleep」では、何かを極めるよりも、空気を読んで“楽しくやる”ことを選んできた。
でも、「はーとぶれいく」で本気で音楽と向き合う仲間たちと接するうちに、「自分だけが取り残される」ような焦燥が彼女を揺さぶっていく。
その感情の動きが、読者の心にも静かに波紋を広げる。

藤井彩目|“過去の栄光”を越えて

彩目は、かつて学内で注目されていた人気バンド「protocol.」のギタリスト。
技術的にも精神的にも成熟して見えるが、実際には、過去の人間関係に傷を抱え、迷いながらバンドを抜けてきた人間だ。

そんな彼女が「はーとぶれいく」に加入するのは、「もう一度音楽と向き合いたい」という静かな覚悟の表れでもある。
そのギターには、技術だけではない“物語”が乗っている。
彼女が鳴らすコードひとつひとつに、「誰かともう一度信じ合う」ための祈りが宿っているのだ。

“ふつう”を脱ぎ捨てたバンドたち──Color Circuitと性的カスタマーズ

『ふつうの軽音部』には、いわゆる“ライバルバンド”という括りでは収まりきらない、音楽を通じての思想や関係性を描くキャラたちが数多く登場する。
中でも、「Color Circuit」と「性的カスタマーズ」は、“音楽に何を託すか”という問いを突きつけてくる存在だ。
そのプレイスタイル、その立ち位置、その言葉──すべてが感情の濃度で語られる、唯一無二のバンドたち。
今回は、この2組を軸に、キャラクターたちの“生きた音”を掘り下げていく。

Color Circuit|感情より理性、共感より信念

「Color Circuit」は、明らかに異質だ。
“バンド=青春”という既成概念を壊すように、彼女たちは感情を爆発させることよりも、「どう鳴らすか」を重視する
大道優希を中心に、八車・古旗・色川のメンバーが見せるのは、まるで感情に触れずに、感情のど真ん中を撃ち抜くような音だ。

たとえばライブのシーン。
客席に媚びることも、煽ることもせず、ただ音を積み重ねるだけ。
それなのに、不思議と目が離せない。
“Color”という名前のとおり、それぞれのメンバーが違う色を持ちつつ、音楽の中で調和し、空気を支配する。
彼女たちは“仲良しバンド”ではない。でも、その冷たさの中に、“孤独と誇りを共有する者たち”の絆が確かに存在している。

大道優希|静けさの中にある支配力

大道優希の存在は、まさに“静かなる中心”。
彼女の発言は少ない。しかし、その少ない言葉が場の空気を変える。
たとえばちひろと対峙したときの沈黙。あの“語らなさ”の中にある強度は、“語らずして伝える”という音楽の本質を突いているように思える。

音楽を「表現」ではなく「構築」として扱う感覚──それが優希の特徴であり、孤高さでもある。
でも、ただ冷たいだけでは終わらない。彼女は、誰よりも音楽に真摯だ。
「Color Circuit」というバンドの美学は、彼女の指先から始まり、全員に伝播する。
それがこのバンドの“ブレなさ”の源泉だ。

性的カスタマーズ|終わりを知る者たちのロック

一方で「性的カスタマーズ」は、音楽の刹那を生きるバンドだ。
名前こそインパクト重視だが、彼らの音楽は“瞬間の煌めき”に満ちている。
特にライブシーンでの描写は圧巻。
「いま、このときだけ響けばいい」という想いがギターに宿り、ボーカルに爆ぜる。

新田たまきと喜田大志の2人は、ただ“楽しいからやってる”のではない
どこかで終わることを知っている。だからこそ、今しか鳴らせない音にこだわる。
“ふつう”を楽しみながら、“非日常”に足を踏み入れる彼らのバランス感覚が、この作品の奥行きを支えている。

新田たまき|「ふつう」の軽音部を守る先輩

副部長としてのたまきは、周囲を笑わせながら、軽音部という“場”を守ることに徹している
だがそれは、単なるまとめ役ではない。
彼女は“ふつう”であることの大切さと難しさを知っている。
ちひろたち後輩にとって、たまきは“いずれ辿りつくかもしれない未来像”でもある。

ふざけているようで、実は誰よりも“音楽”を信じている──その二面性がたまきを魅力的にしている。
彼女の存在があるからこそ、物語は軽くなりすぎず、重くなりすぎず、ちょうどよく“グルーヴ”しているのだ。

“音楽”がつないだ、それぞれの“痛み”──その他の登場人物たち

『ふつうの軽音部』の物語が“リアル”に感じられるのは、主役たちの背景に、いつも別の誰かの物語がそっと息づいているからだ。
まるで、楽曲の裏で支えるベースラインのように。

光を浴びることはなくても、そこにいた誰か。
音を出さなくても、物語に“重み”を与える誰か。

今回は、そんな“表に出ない感情”を担うキャラクターたちに光を当てる。
彼らの存在は、音楽という名の物語に“陰影”と“深度”をもたらしている。

矢賀 緑|始まりの扉をそっと開けた人

ちひろを軽音部に誘ったのは、友人の矢賀 緑だった。
物語の中心には立たない。けれど、彼女の一言がなければ、ちひろがギターを手にする未来はなかった

「ギターとか、向いてるかもよ?」
その言葉に、強い意図はなかったのかもしれない。
でも、だからこそ響いた。
“誰かの人生を変えるきっかけは、いつもそんな風に、ふと訪れる”
矢賀の存在は、小さな優しさが物語を動かすということを、静かに教えてくれる。

田端陽一&柿田駿|うまくいかない現実も、物語の一部

ラチッタデッラは、うまくいかなかったバンドだ。
でも、最初から失敗が決まっていたわけじゃない。
田端陽一のズレたテンションと、柿田駿の冷静なツッコミ──その不協和音すら、“部活バンド”の真実のひとつだった。

「好き」だけでは続かない。「楽しい」だけでは乗り越えられない。
彼らの存在が、ちひろに“続ける”ことの重さと、バンドに必要なのは「人間関係」だという当たり前の難しさを教えた。
失敗したからこそ、次が生まれた。
彼らは“終わり”を通して、ちひろの“始まり”を描いたのだ。

鷹見項希|才能が孤独を生む、その裏側で

鷹見項希は、“天才”と呼ばれる側の人間だ。
でも、そのラベルは、「わかってもらえない」ことの免罪符ではない
圧倒的な技術力、鋭すぎる感性──
彼の音は、確かに人の心を震わせる。でも、そのぶん、誰とも歩幅が合わない。

そんな彼の隣にいた彩目が、バンドを抜けた理由は明確には語られない。
けれど、読み取れる。
「うまくなればなるほど、孤独になっていく」──その怖さに、彼女は耐えられなかったのだ。
項希は、“音楽の才能”が“人としての不器用さ”につながることの象徴。
読者は彼に畏れを抱きながら、どこか共感してしまう。

ちひろの母|夢と現実のあいだにいる親

ちひろの母は、娘を止めることはしない。
でも、それが“応援”であるとは限らない。
彼女の言葉や態度には、「夢を見ている暇があったら、現実を見なさい」という“正しさ”がにじんでいる。

ギターを買うお金を貸す場面でも、「女と女の約束」と釘を刺す。
応援の形をしていて、突き放すような優しさ
それは、現実を知っている大人にしかできない関わり方だった。
彼女の存在があるからこそ、ちひろの挑戦には“危うさ”と“意味”が生まれる。

その他のキャラたち|“主役じゃない”ことの尊さ

八車、古旗、色川、乃木舞伽、須田陸人──彼らのセリフは少ない。
でも、彼らがいるから、舞台が広がる。
主役を引き立てるための存在、なんて簡単には呼ばせない。

“報われない”役回りの中に、それでも生きている人の匂いがある。
「ふつうの軽音部」という作品の凄みは、こういうキャラたちの描き方にこそ表れている。
どのキャラにも、物語がある──それを感じたとき、読者はページを閉じても、その世界にまだ“誰かが生きている”ような余韻を味わうのだ。

“ふつう”という名の旋律に、あなたもきっと心を重ねている

“バンドもの”というジャンルには、熱さや成長、仲間との絆が描かれることが多い。
でも『ふつうの軽音部』は、そういった定型をどこか遠ざけながら、「ふつう」な人々の心のひだを丁寧にすくい上げる作品だ。

夢に本気になれないちひろ。
信じることに全力な厘。
周囲に合わせて笑う桃。
過去に囚われた彩目。

彼女たちの音は、不完全で、歪で、だからこそ美しい。
その“いびつさ”が、わたしたち読者の感情とぴたりと重なってくるのだ。
「自分のままでいい」とは言えない世界で、彼女たちは「それでも音を鳴らす」ことを選んだ。

だからこそ、この物語は胸に残る。
だからこそ、彼女たちは“ふつう”じゃない。

ページを閉じたあとも、きっとあなたの心のどこかで、「ふつうの軽音部」という旋律は鳴り続けている。

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